イギリスのワイン専門誌『Decanter』の最新11月号の巻頭特集はニュー・エレガント・オーストラリア。かつては「フルーツ爆弾」とか「樽香ガンガンのワイン」というイメージが強かったオーストラリアワインも、今では食事とのマリアージュを最重視し、15度近かったAlcや樽のニュアンスも控えめになり、エレガントなスタイルのワインに変身しています。デキャンター誌の表紙を飾っているのは、『ジャコンダ シラーズ』と『モリー・ドゥーカー ザ・ボクサー・シラーズ』ですが、この好対象な2本の組み合わせも今の豪州を素直に表現していて面白いです。
折りしも、南オーストラリアのクレアヴァレーのグロセットからオーナー兼ワイン醸造家でスクリュー・キャップ(SC)の先駆者として知られているジェフリー・グロセットさんと、輸入元ジェロボームさんの招聘で西オーストラリア・マーガレットリバー、ヴァス・フェリックスのチーフワインメーカーのヴァージニア・ウィルコックさんが来日していたこともあり、オーストラリアのワイン最前線&SCについて再考する機会を得ました。
第1部 スクリュー・キャップを正しく理解する
グロセットさんは24日(月)AM、日本に到着! 東京2日間、関西方面2日間、その後(28日)中国に出向くというハードなスケジュールのなか、輸入元ヴィレッジ・セラーズさんのお計らいで東京事務所(東銀座)で再会することができました。コーエン社長&中村専務に感謝です。ちょうど当日の午後使うワインのチェックをなさっているところにお邪魔したのですが、ここでSCの存在を大いに意識させられる事態が・・・コルク栓のワイン(PNリザーヴ96、ガイア97)の一部がブショネだったのです! 素晴らしいワインなのにコルク臭のせいで実力を発揮できないまま終わってしまうワインたち。ワイン醸造家&関係者には到底納得できない、許せないことです。96年、97年は特にブショネが多かったそうで、グロセットさんは当時心底悩まされていた由。そのことを図らずも知ることになった瞬間でした。
来日前にグロセットさんからいただいていたお返事です
>>>http://non-solo-vino.blog.so-net.ne.jp/2011-10-12
試飲ワインをチェック中のジェフリー・グロセットさん@ヴィレッジセラーズ銀座事務所
グロセットさんにとっては今は昔・・・のコルクたち、現在すべてのワイン栓はSCです
キャップ内側のライナーについての解説
グロセットさんは白い面をSaran/銀色の面をTin(錫すず)と呼んでいました。
錫すずを使うことがポイント
長年SCの研究を重ねてきた豪州ですが、1975年~1982年の間に商業ベースでSCが出回っていた時のライナーはスポンジ/アルミニウムの素材だったそうです。2000年にグロセットさんをはじめとするクレアヴァレーの14生産者がSC(Stelvin)のワインを一斉にリリースした時は、現在使用されている a:スポンジ/錫の組み合わせで、これは2002年から国際規格になっています。グロセットさんは「我々は過去20年間の調査・研究データによって、目の前に正しい答えがあることがわかっていました」とコメントしていました。
ちなみにフランス・シャブリ地方のミシェル・ラロッシュ※やアルザス地方のポール・ブランクが2001年に使用していたSC(Stelvin)のライナーは、b:スポンジ/プラスチックで、aより気密性に欠けていました。「我々もフランスと同じメーカーでしたが、“錫すずの使用”を指定していました。初年度のフランスはSC情報が徹底していなかったこともあり、旧来のプラスチックが使われていたようです。後に、両社の2001年ヴィンテージのSCワインを入手して味見してみたのですが、やはり気密性に問題があり、コルクと余り変わらない状態でした」とグロセットさん。
覚書※:2004年にミッシェル・ラロッシュさんが来日した時、インタビューする機会がありました。日本初、SC仕様の2002年ヴィンテージをお食事にあわせていただく趣向でした。この時、ラロッシュさんは「2002年ヴィンテージからトップレンジのシャブリ・グラン・クリュ『レゼルブ・ドゥ・ロベディアンス』にSCを導入しました」とコメントなさっていましたが、グロセットさんのお話から推察すると、ラロッシュさんは2002年ヴィンテージの正式リリースの前にSCのトライアルをなさっていたわけで、その時に使っていたSCとレゼルブ・ドゥ・ロベディアンスに使ったSCは<プラスチックvs錫>で素材が違っていたことになります。
独自の研究データ
グロセットさんが見せてくださった2004年発表の実験データ
縦軸は実験の回数、横軸はpermeability透過率で、右に行くほど空気が通りやすいことを示しています
一番左のグリーンがSC(錫使用)、SCの数値は内側が錫使用のカスクを利用して算出
中央(淡いオレンジ)と右端(黄色)は合成コルク
最下部の2本の横線がコルク(立てたボトル乾いた状態)
コルク(寝かせたボトル湿らせた状態)
※立てておいた瓶より寝かせておいた瓶のほうが気密性はあるものの、コルクによってバラツキあり
プレミアムなコルクとSCは同じ働き
グロセットさんがインタビューの間、主張していたことは、「SCは気密性があるので空気を通さない」という理解のされ方に対する反論でした。「それは間違った解釈です。そうではなくて、SCで打栓したワインでもわずかな隙間を通して微量な酸素が入ってきています。その酸素の働きは、緻密な気孔を持つプレミアムな天然コルクと同じです。瓶のなかではゆっくりですが緩やかな熟成が行われているのです」と。
「ワインには酸素の影響を受けさせたくないので、できるだけ酸素が入らないように瓶詰していますが、それでも瓶詰後、すぐ抜栓して味見したワインと、数週間置いて味見したワインでは、味わいに変化が出ています。瓶内にあった酸素がワインに溶け込んでいる後者のほうが明らかに元気になっています。コルクは品質によって酸素量も違いますが、酸素がボトル内で循環しているわけで、これはSCでも同様です。熟成に関して新たな酸素は必要ないという答えは出ていますが、それでもワインの熟成段階で、“理想的な酸素量のスイート・スポット”があるのか、あるならそれはどこなのか、その点を考えなければなりません」
グロセットさんが自己資金で始めたオーストラリア・クロージャー・ファンド(ACF)には現在フランスと豪州のボトル会社がスポンサーになっており、審査はオーストラリアン・ワイン・プレスクラブの会長がサポートしています。もとよりACFを立ち上げた目的は、「瓶詰め後のワイン熟成における栓の役割」を研究・推進するためであり、ACFの今後の研究成果は世界中のワイン関係者が注視している事柄です。
グロセットさん!
日本到着後のお疲れのところ、貴重な時間を本当にありがとうございました!
今後の成果を楽しみにしております。
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