長文になりますがお付き合いの程、宜しくお願いいたします🙇♀️
ブルゴーニュのムルソーを拠点とするアルノー・アント
1990年代のスタートなのでワイン業界では後発ですが、いまや、ワイン愛好家垂涎のドメーヌとして確たる地位を築いています。今年1月、アルノー・アント当主のご子息で、ルグラン・パリの仕入れ担当者ルイ・アントさんが来日。プレスセミナーで、畑仕事から醸造に至るまでのこだわりを語りました。
まずは、“ワイングローブ(ガラス製容器)”から進めていきます。
アルノー・アントはワイングローブの開発者マイケル・パエツォルトと共同研究してきた方なので、容器の話題が楽しみでした!
アルノー・アントのワイングローブ
使用しているワイングローブの容量は220リットル
以前は15ヘクト㍑のフードル(醸造用の大樽)を使っていましたが、現在は使用していません。
ワイングローブ開発のきっかけについて、ルイさんに確認したところ、「少量の仕込みの際、大きなガラス容器ダムジャンを使っていたが、ガラスで醸造したワインの純粋さに満足したので、より大きなスケールでも同じような醸造をしたいと考えるようになった。マイケル・パエツォルトとの出会いにより容器を製品化する機会を得た。世界で初めてワイングローブを使用したワインメーカーはアルノー・アントであり、導入以降、少しずつ、容器の数を増やし、現在の所有数は約100個」とのお返事
ワイングローブの最大の魅力について「ガラスという素材が非常にニュートラルであり、バクテリア汚染や酸化を防ぐ点でも効果的。洗浄しやすく、耐久性があり、長期にわたって使える」とルイさん。ただ、フードルよりワイングローブのほうがSO2が多めになるとのこと
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ワイングローブを使った完成形を、私が初めて試飲したのは2024年の秋のことでした。南仏のジェラール・ベルトランのオレンジワインで、生産者は「第一に色の抽出が綺麗。澱は常に対流している。ワインツーリズムでも視覚的に効果がある」と解説。実際に試した感想は「アロマが豊か、長い余韻、好感がもてるワイン」
2024年12月に山梨県の『葡萄酒技術研究会後期講演会』でお話させていただいた折、オレンジワイン『ヴィラ ソレイヤ2021』を会員の皆さん(エノログ)に試していただきました。その感想が以下 (サントリーの大山栽培技師長、メルシャンの小林醸造長、安心院葡萄酒工房の舛田チーフ、ルバイヤートの大村社長等、日本のワイン界をけん引している方々から高評価でした)
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ガラス栓の導入も見据えながら
ガラス栓ヴィノロック
クロージャ―(栓)については、「2016年に①現在使用している天然コルク ②最上級の天然コルク ③ノマコルク ④DIAM ⑤ヴィノロックで熟成具合をテストしたところ、⑤が最も還元的でなかったので、将来的にヴィノロックを導入する選択肢もある」とルイさん
ブノワ・アントのブルゴーニュ・アリゴテ2022のコルク、長くて緻密
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ここからプレスセミナーのリポート
【ファミリーの沿革】
1950~60年代にかけて自社畑のぶどうでワインを造り、瓶詰まで行っていたのが母方の祖父カミーユ・ダビィドで、彼にはふたりの娘がいました。妹のほうがアルノーとブノワの母ですが、彼女はアルノーが3歳、ブノワが1歳の時に他界。祖父の畑は姉(彼らにとっては伯母)が相続します。ブノワは22歳の時に、伯母のもとでワイン造りを始めます。一方のアルノーは生物学を専攻し、さらに、キャリアアップのために理学療法士を目指しますが試験に失敗し~結婚を機に妻の父から任された小規模の畑でワイン造りをスタートさせ、研鑽を重ねていきます。教えを請うたのはムルソーの重鎮ジャン=フランソワ・コシュ。多くを学んだアルノーは持って生まれた“こだわって、こだわって、こだわって”の精神で、区画ごとの特徴を把握し、それぞれに最適な管理を行う「区画ごとのアプローチ」を実践。カバークロップ、マサル・セレクション、樹液の流れを尊重した剪定や収量制限、収穫のタイミングの見極め等、多方面から徹底した作業を実施しています。
データ:wine to style
アルノー家が造りに関して方向転換をしたのは2003年、熱波でフランスでも多く人命が奪われた年です。ぶどうやワイン造りにも影響が出ました。アルノーは繊細なアロマを備えた酸を主体とするワイン、テロワールを最大限に表現することを旨としてきましたが、2003年のワインにはそれらの要素が表現できていないことがきっかけでした。アルノー・アントにとってすべてのキュヴェの質を高めることは必須。ゆえに、プルミエ・クリュを村名ワインに、村名ワインを広域のワインにブレンドするなど、“一切の妥協を許さない姿勢”を貫いています。生産量が少ないので、欧州では星付きレストランだけで消費されるワインになっています。
【ブノワ・アント&アルノー・アントのテイスティング】
供出されたワインは、ブノワが温暖年の2023年、アルノーは冷涼年2021年。2年間の差があるのは「ブノワのワインは外交的でクリーミー。若くても親しみやすいタイプ。アルノーはシャープで緻密、酸が中心。ゆえに、飲み頃を考えて差をもたせた」とルイさん
ブノワ・アント ブルゴーニュ ブラン2023
核の大きなストーンフルーツ、第一香は白桃、続いて蜂蜜
若々しい輝き、澱由来の複雑味のある味わい、果実味と酸味のバランス
豊潤さをまとった魅力的なワイン
アルノー・アント ムルソー2021
醸造容器はフードルとワイングローブを各50%使用
アルノーらしい“緊張感、緻密”
アロマ芳醇、透明感とミネラル
舌の上を洗い流すシャープな酸味
冷涼年ならではの研ぎ澄まされた食感
本性発揮まで時間が必要
アルノー・アント ヴォルネイ PC レ・サントノ・デュ・ミリュ2021
3回に分けて収穫し、3回に分けて醸造
2018年以降、熟成では木樽は使用せず、ワイングローブのみ
下の文字が読める淡いルビーの色調
アロマはフローラル、赤系果実
中盤以降、インパクトある味わい
ぶどうの質感、端正でシャープな印象
左から
・ブノワ・アント ブルゴーニュ アリゴテ アンティクトーヌ2023
・ブノワ・アント ブルゴーニュ ブラン2023
・アルノー・アント ブルゴーニュ シャルドネ2021
・アルノー・アント ブルゴーニュ ムルソー2021
・アルノー・アント ヴォルネイ プルミエ・クリュ レ・サントノ・デュ・ミリュ2021
供出ワインは1時間半前に抜栓してサービスされました。
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【地球環境からの視点】
世界的に注目されている「耕さない農法」についてルイさんが語っていたので、環境再生農業の認証ROC(Regenerative Organic Certified)をどう思うか聞いてみたところ、「土壌中の微生物を守るという意味では興味深いモデルだと思うが、カバークロップ(土壌の組成や構造によって異なるがソラ豆、エンドウ、スペルト小麦等、約6~7種を活用)の管理は適切に行わねばならない。表土から5㎝ほどまでは耕していて、4月にぶどう樹が生育を始めるタイミングや成熟に向かう段階でカバークロップを優しく耕して処理している」とおっしゃっていました。
アルノー・アントがフードルの使用を100%廃止したことを伺い、私が感じたのは“地球への想い”。ワインと樽は表裏一体の関係だけに、これが必然でなくなれば、森林への影響や温暖化対策に効果的だと思いました。アルゴンヌの森の木から樽を造っているシャンパーニュ地方のアンリ・ジローの場合は、木を伐採したら必ず若樹を植えていますし、同じような行動をしている生産者はもちろんいますが、アルノー・アントのような流儀は画期的なことだと思います。
出典:樽とオークに魅せられて/加藤定彦著/TBSブリタニカ
サントリーに入社してウイスキー樽一筋40年で、樽とオークに関する研究を重ねてきた加藤定彦さんは著書のなかで、森、川、海の食物連鎖について記述しています。水の使用についてはルイさんが「フードルだと洗浄に40㍑の水が必要だが、ガラス容器なら10㍑」と言及
ワイン業界への参入前、アルノー・アントが目指していた理学療法士は、人間が活動する上で必要な基本動作の改善を行う専門職なのですが、今の立ち位置は、温室効果ガス等で、大きな痛手を受けている地球改善の“療法士”になっているような印象ですね☺️
アルノーのワインと出会うことがあれば、拙ブログを思い出していただけると嬉しいです。


