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大橋健一MWを迎えての『シャトー・メルシャン プリムール・テイスティング』
今年で2回目の開催です。昨年、私は出張中で参加できなかったので、今回は安蔵光弘チーフワインメーカー(左)によるミレジム(収穫年)とワインの造りについての解説、大橋健一MWによる各ワインの講評をしっかり拝聴させていただきました。

会の冒頭、館野敦常務執行役員営業本部長は、「ワイン市場は緩やかに成長しており、なかでも日本ワインは順調に推移。構成比は全体の5%程度ですが、好調な伸びを示しており、弊社では今年9月長野県塩尻市に桔梗ヶ原ワイナリー、来秋には長野県上田市に椀子ワイナリーを建設予定。品質を含め、さらなる成長していきたい」と述べました。
2017年のミレジムについて
下表はボルドーのプリムール・テイスティングを参考にして作成した城の平地区のメルローの生育記録です。通常は萌芽、開花、ヴェレゾン(ぶどう果実の着色)、収穫を記載しますが、日本ではぶどうの萌芽が早い時は桜の開花も早いとのことで、よりわかりやすさを示す意味で、桜の開花(ピンク)と梅雨(空色)を挿入してあります。

画像はクリックで拡大
表をご覧いただくと、2015年の開花が早いことがわかります。例年より4~5日早かったようで、桜の開花とぶどうの萌芽に間があるのは寒さがぶり返し、その影響で萌芽が若干遅れたことを意味しています。2016年は2015年より、さらに4~5日早かったので、結果として10日ほど早い開花でした。
2017年の開花は例年並み。梅雨が短く、雨量も少なかったことで、晩腐病の一時感染が少なかったとのこと。8月は曇天と降雨で日照量は少なめ。9月以降は晴天が続き、生育の遅れを取り戻しました。10月中旬から気温が下がったので、晩熟のカベルネには酸が残り、最終的に、病気も少なく、糖度の高いぶどうが収穫できました。
シャトー・メルシャン テイスティングアイテム

(前列左から右)
#1:甲州きいろ香
#2:北信シャルドネRGC千曲川左岸収穫
#3:北信シャルドネRDC千曲川右岸収穫
(後列左から右)
#4:穂坂マスカット・ベーリーA セレクテッド・ヴィヤーズ Barrel sample
#5:城の平 Barrel sample
#6:桔梗ケ原メルローBarrel sample
#7:椀子オムニス Barrel sample
シャトー・メルシャンの各ワイン解説&講評
#1:甲州きいろ香

きいろ香のファーストヴィンテージは2004
大橋MWが「ピンクスキンのぶどうで、グリ系のゲヴェルツ等の品種とは異なる個性を持っている」と表現していた甲州
■産地は山梨県甲府市の南に位置する玉諸(たまもろ)地区、標高(約250m)は低く、砂地で熟すのが早いエリア。2004年の初VT以降、きいろ香に最適な産地を模索した結果、2010年頃から玉諸地区の甲州を使用。2017年は2016年より10日ほど遅い収穫になった。澱下げや冷却処理(酒石除去)は行わず、フィルター掛けも酵母等の大きな固まりを取り除く程度、できるだけ旨味を残す工夫をしている。
MW講評:甲州に関して、プロの間では確実に認知度があがっていると個人的には理解している。初期の甲州にはエステル香があり、酵母の力に頼っていた。2017年のきいろ香を昨年のものと比べると、テクスチュアがフェノリック(フェノール化合物由来の苦みの効いた)。良い意味でのビターさがあるので、ワイン全体のフィニッシュに奥行きを与えている。メルシャンチームの収穫時期の洞察、醸造技術を生かした個性的なヴィンテージと言える。
私感:きいろ香の生みの親、故富永敬俊博士のお言葉を辿りながら・・・・。
いつも、「きいろ香はリリース後、半年は静かにさせてから味わって」とおっしゃっていました。2005年ヴィンテージの発売後、博士からいただいたコメントに、「フグ刺にグレープフルーツを搾ることは躊躇しそうですが、バンペイユや日向夏等の和製柑橘なら合いそうですね。香りは果肉と皮ではかなり違います。きいろ香にみいだされる日向夏やバンペイユの香りは果皮に傷をつけて嗅ぐと良くわかります。柑橘の皮の持つビターさが連想できそうな、より複雑な香りが楽しめるはずです。きいろ香と和製柑橘で和食がもっと楽しくなりそうな気配です」というのがありました。2017年ヴィンテージを利き酒して、MWがコメントしていたビターな味わいは、柑橘果実の内果皮の苦みと重なり、料理との相性連想も楽しめました。
プリムール・テイスティングで供出された2017年VTから10年遡る2007年VTに関して、博士が寄稿してくださったアロマティック品種とノン・アロマティック品種も載せておきます。ご命日の6月8日、間もなくです。
#2;北信シャルドネRGC千曲川左岸 収穫
■産地は長野市豊野地区とその周辺。標高300~400m、粘土質土壌、収穫は10月上旬から中旬、右岸・左岸というテロワールを強調したワイン、ぶどうの果実味を大事にしているので、新樽(30%)の使用率は少なめ。すべて樽内発酵。
MW講評:北信シャルドネは左岸・右岸ということで、キャラクターの違うワインに仕上がっている。樽の乗り具合に幾分違いがあり、昨年はもう少しトースティ-でグリルした印象だったが、今年はクリーミー。ライトで酸がきれいに伸びているので、今の時点で完成度の高さを感じる。樽やMLF由来の滑らかさと、最後に和食に合うきれいな酸とかすかなフェノリックがテクスチュアを引き締める役割をしている美しいワイン。
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#3:北信シャルドネRDC千曲川右岸
安蔵チーフワインメーカーは「熟したグレープフルーツ」、定点観測している大橋MWは「ソーヴィニヨン・ブランに感じるグァバやパッション・フルーツ様な香りがある面白いヴィンテージ」と表現した右岸のシャルドネ
■産地は長野県北信地区高山村と須坂地区。標高の最高位は650m、砂礫質土壌で日本でも有数の砂利が多いエリア、収穫は10月中旬、ブレント比率は須坂11%、高山89%、左岸同様新樽率は30%
MW講評:ソーヴィニヨン・ブランに感じるような香りのニュアンスが出ることが今までと違うヴィテージの印象。収穫をギリギリまで伸ばしたことで、酸は昨年より高め。今際立って感じる酸味、樽の要素は今夏のリリース時までには落ち着いてくると予想
4種の赤ワイン
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#4:穂坂マスカット・ベーリーA セレクテッド・ヴィヤーズ Barrel sample
■産地は山梨県穂坂地区、同地区の2つの畑をセレクト、遅摘み。標高は450~550m、昼夜の温度差が大きいので、きれいな酸が残る。樽育成(20~24ヵ月)は長めにして、キャンディー香ではなく、苺(完熟した苺)の香りを前面に出したい。瓶詰は早くて2年後。
MW講評:フォクシーフレーバーは勝沼より穂坂のほうが控えめなので、海外市場で適応できる。アールグレーのような若干スパイシーな茶葉の香り。より複雑味を増して進化したMBA。余韻にきれいな酸が残る。品種特性として酸もタンニンは控えめなので、それを補正するために、もう少し退廃的(オールドリオハや昔のカリフォルニアワインに感じたダスティーなニュアンス)なワイン造りも選択肢のひとつ(?)
アメリカンオークの使用について安蔵チーフワインメーカーは「2005年に、初めてMBAを名乗った品種別のワイン『山梨マスカット・ベーリーA 2001』をリリースした時にはフレンチオークを使用していましたが、その後のバレルトライアルで、MBAの華やかな香り、イチゴやジャムのような香りがアメリカンオークと相性が良いことがわかり、取り入れています」とおっしゃっていました。
私感:今年は岩の原葡萄園の創始者、MBAの生みの親 川上善兵衛さん生誕150年!
岩の原葡萄園のMBAのぶどうは真ん中からカットすると切り口が羊羹状! 凝縮していて水分をあまり感じさせません。安蔵チーフワインメーカーによると、穂坂のぶどうはジューシーとのこと。MBAに関しては、ぶどう自体の違い、収穫のタイミング、直近で試飲した各社(メルシャン、岩の原葡萄園、サントリー、MGVs等)それぞれの樽使い(樽熟)にも非常に興味惹かれています。
#5: 城の平
※バレルサンプルのブレンド比率は最終決定ではないのでリリース時とは異なる可能性あり
■産地は山梨県甲府市城の平ヴィンヤード、勝沼にある自社管理畑、標高550~600m、ここ10年くらいでカベルネ・フランCF、メルローME、プティ・ヴェルドPV、カベルネ・ソーヴィニヨンCSを植樹。ブレンド比率はCS84%、ME11%、PV5%、新樽率は60%。早摘みぶどうのCFは、8月1日からの悪天候(日照が少なかった)のため、ピラジン(ピーマン臭)が出てしまい、ブレンドには使用しない。ちなみに収穫日はCF10月4日~、ME10月5日~、PVは10月9日~、CSは10月18日。
MW講評:シャトー・メルシャンのアイコンワインのひとつ。偉大なCSを生産していることが素晴らしい。昨年来日して試飲したサム・ハロップMWは「2016年VTをインターナショナルクラス」と評価。ボルドーのワインと比べるとテクスチュアはまるいが、全体的なシェープは細い、昨年は全体的にまとまっていた。昨年がサン・ジュリアンだとしたら、2017年はぺサック・レオニャン、メルローを加えることで、幾分か肉付けをしているスタイル。タンニンは桔梗ヶ原と比べるとグラベリー(ごつごつした小石を口にした味わい、まだタンニンのざらつきが前面に出る)、カベルネらしさが出ているワインと言える。
#6:桔梗ケ原メルローBarrel sample

■メルシャンのシグナチャーのワイン。産地は長野県塩尻市桔梗ヶ原地区、標高730m、礫層が基盤の火山灰層が堆積した水はけの良い土壌。垣根式栽培、遅くまで収穫を引っ張った年、10月10日から開始。健全で糖度が上がった年、十分な酸味もあり、バレルサンプルは比較的醸しの長いタイプのものをブレンド。
MW講評:堂々たる存在感のあるワイン、メルロー主体のグラン・ヴァンに必要な要素が完結している。違うのはテクスチュアで、ボルドーのものより幾分スリム、でも酸味がきれいに残る。香りや木目の細かいタンニンの完成度は、日本のメルローの代表選手としてインターナショナルなレベルまでこのワインを押し上げているメルシャンの技術力によるもの。
私感:1998年からメルシャンの醸造アドバイザーに就任した故ポール・ポンタリエさん。
2013年の来日時に行った桔梗ヶ原メルローの垂直試飲での言葉がとても印象的でした。
「ワイン造りの定義は国によって様々であり、テロワールも違うので、フランスやカリフォルニア等と同じものを造っていくのではなく、本当の意味での“日本ワインを造る”ことであり、そのためには日本の文化、食生活と常にリンクしていかなければならない」と。そのポンタリエさんが桔梗ヶ原メルローに求めていた“フィネス&エレガンス”。今回、大橋MWは講評で「ボルドーのものより幾分スリム、でも酸味がきれいに残る」と表現していていましたが、私はこのスリムながら最後に酸が残るスタイルこそが、ポンタリエさんが常々言っていた“日本ならではの清涼感”だと思っています。故ポンタリエさんがアドバイスしてくださった桔梗ヶ原メルローの完成形、期待しています!
#7:椀子オムニス
■産地は長野県上田市椀子ヴィンヤード、標高650m、強粘土質土壌、垣根式栽培、椀子ではメルローのタンニンをうまく熟させたいというのが課題、ゆえに長くハングタイムを取りたい、ただ糖分がどんどん上がってしまうので、そのタイミングが難しい。カリフォルニアやボルドー右岸の様な悩みを持つ年は初めて。オムニスは椀子ヴィンヤードの中で、その年のベストの品種をメインにしているワイン。2017年の主要品種はCF。城の平(500m)と椀子(650m)では収穫時期が1週間から10日しか違わず、天候も山梨、長野とも大差なかったが、椀子の標高の高さと10日間の差がCFにベストマッチ。ブレンド比率は暫定でCF45%、ME33%、CS18%、PV4%。収穫日はME9月27日~、CF10月4日~、PV10月5日~、CS10月13日
MW講評:毎年主要品種が変わるワイン。世界からフューチャーリングされているCFがメインになったVT。 CFの良さがしっかり出ているかどうか、他の品種がCFからのサポートを受けているかを見ると、本来のCFのキャラクター赤い果実ではなく、オムニスは黒い果実イメージ。ただ、余韻にCFの特性のスミレのフレーバー、トップノートに微量ながらバランスの取れた軽いピラジンがある。香りより味わいの統一感に時間をかけるべきで、口中に感じるタンニンの素性、樹から抽出されたタンニンがまだ残っているので、瓶詰めまでにより時間をかけてリリースして欲しい。
■シャトー・メルシャン情報 >>>http://www.chateaumercian.com/aboutus/
■メルシャン製品ついてのお問い合わせ先 お客様相談室(フリーダイヤル) 0120-676-757