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今年3月に他界したニコラス・ハーンさんの跡を継ぎ、2代目当主として精力的に活動しているフィリップ・ハーンさん(37歳)が、No.1市場である日本に初来日しました!

独立した家族経営のハーン・ファミリー・ワインズ(以後ハーン)はカリフォルニア州セントラルコースト、モントレー・カウンティのサンタ・ルシア・ハイランズ(S.L.H)に位置し、冷涼な気候に適したシャルドネとピノ・ノワールに力を入れています。

2014年に訪問した時は収穫の真っ只中で、4機のグレープハーベスター(ぶどう自動収穫機)がフル稼働していました。実に壮観でした!
フィリップさんにそのことを伝えると、「今は7機だよ」とのお返事が。自社畑1100エーカー(440㌶)のうち、8割がグレープハーベスターによる収穫のようです。
今回のプレスディナーでは、7年目から導入している『Flash Détente/フラッシュ・デタント』、カベルネ・ソーヴィニヨンの醸造に使っている装置についてのお話を伺うことができました。
ハーン・ファミリーの軌跡

1980年:ドイツ系スイス人のニコラス・ハーン&ガビー・ハーンご夫妻がワイン造りの適地を探していた時、小休止するために立ち寄ったモントレー・カウンティの自然(朝夕の霧、グランド・キャニオンに匹敵するモントレー湾の海溝)に触れ、この地でのワイン造りを決断。最初の自社畑スミス&フックを購入。
1991年~2006年:ニコラスさんはサンタ・ルシア・ハイランズについての詳細なリポートを政府に提出し、AVA認証に尽力。ハーンは当初カベルネ・ソーヴィニヨン主体でしたが、冷涼気候に適したシャルドネやピノ・ノワールにシフトチェンジ、成功をおさめます。
2006年~現在:AVAはサンタ・ルシア・ハイランズとアロヨ・セコ、自社畑440㌶、The Sustainability in Practice(SIP)TM Program(環境保全実践プログラム)により、畑の管理、土壌の保全、水質&エネルギー保全等、環境や労働者への配慮に注力。
ハーン・ワイナリーのポートフォリオ

(左から)
◍ハーン(“雄鶏”の意)を表示したラベル。自社畑と契約農家のぶどうを半分ずつ使用。新樽率は40%程度。仏産オークのみ使用。
◍S・L・Hは4つの自社畑のぶどうを使い、サンタ・ルシア・ハイランズの個性を表現。基本的に新樽率は30~35%程度(樽香を抑えたスタイル)、樽熟成は11ヶ月。仏産オークのみ使用。
◍ルシエンヌは単一畑(スミス・ヴィンヤード/使用するのは2クローン)から造られる高品質なピノ・ノワール。スミス・ヴィンヤードは所有する畑のなかでは一番古く、内陸にあたるので最も暑いエリア、凝縮感のあるぶどうが収穫できる。
◍スミス&フックは設立当初から取り組んできたセントラルコーストのカベルネ・ソーヴィニヨンを使ったラグジュアリーなワイン。
供出されたのは未輸入を含む8アイテム
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フィリップさんのお気に入りはやはりピノ!
4番目に登場した『ハーン S・L・H ピノ・ノワール エステイト グロウン2016』でした。(供出ワインは後方にある8本、左から右の順)
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#1:ハーン・ワイナリー シャルドネ2016
若さを感じるゴールド、粘性は長く、柑橘果実や南国果実、木香、ロースト香。口中に厚み、クリーンな余韻
#2:ハーン S・L・H シャルドネ エステイト グロウン2016
粘性&ぶどうの凝縮感。黄桃や蜜を含んだリンゴ、白コショウ、ヴァニラ、ヘーゼルナッツ(樽香は#1より控えめ)、パワーがありながらエレガント、おすすめワイン!
#3:ハーン・ワイナリー ピノ・ノワール2016
下の字が読める淡赤色、若々しい赤系果実、木香、柔らかなタンニンと心地良い酸味。2018年1月、2月JALのビジネスクラス搭載ワイン。
#4:ハーン・ワイナリー S・L・H ピノ・ノワール エステイト グロウン2016
透明感のあるルビーレッド、さくらんぼや苺、ピンクペッパー、焙煎香、ココア、口中に赤系果実のフレーバー、中盤から広がる酸味、余韻も長く、酒質がきれい。フィリップさんの一押しアイテム!

ハーンが使っている20のピノ・ノワールのクローンをブレンドして造るS・L・H
2014年の訪問時にいただいたブローシャーには16のクローンが書いてあり、どのようなタイプのワインになるかを一覧にしてあります。
#5:ルシエンヌ ピノ・ノワール2016 (日本未輸入)
内陸に位置するスミス・ヴィンヤードならではの凝縮感のあるぶどうを使用。1974年にボルドー品種を初めて植樹した畑で、現在はピノとシャルドネが基幹。色調はルビーレッド、赤系&黒系果実、ピンクペッパー、口中で噛み込める印象、今飲んでも楽しめるが、熟成の変化をみたいアイテム、ポテンシャルあり。
#6:ハーン・ワイナリー カベルネ・ソーヴィニヨン2016
ぶどう品種はCS82%主体、ジンファンデル14%、他メルロ、マルベック、プティ・シラー、グルナッシュ、プティ・ヴェルドをブレンド。レッド・チェリー、スグリ、ヴァニラ、ココア、ソフトな酸とまろやかなタンニン、フェミニン、フラッシュ・デタント使用。
#7:スミス&フック カベルネ・ソーヴィニヨン セントラル・コースト2016
ハーンが初めて手掛けたアイテムで37ヴィンテージ目、ぶどう品種はCS100%、小粒で果皮が厚いぶどう由来の深みのある色調と黒系果実(黒スグリ、プラム等)のニュアンス、甘草、グラファイト、骨格がありながら馴染みやすいタンニン。フラッシュ・デタント使用。
#8:スミス&フック プロプライアタリー・レッド・ブレンド セントラル・コースト2014 (日本未輸入)
ボルドーブレンド、ぶどう品種はメルロ40%、マルベック32%、プティ・シラー26%、CS2%をブレンド。マルベックを多く使っていた1910年以前(フィロキセラの害を受ける前)のボルドーワインを再現したタイプ。フラッシュ・デタント使用。
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“食事に合うワイン”という点をハーンはとても大事にしています。
今回は赤坂の隠れ家レストラン『紫芳庵』の和の素材に合わせてのマリアージュでした。
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布久白子豆腐 薬味 美味汁
もみじおろしのピリ辛感が、樽の要素を感じるスタンダードのシャルドネとピノ・ノワールと相乗
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切り身魚霰揚げ 漉油 藻塩 酢橘
衣の香ばしさと和風柑橘の酸がS・L・Hのロースト風味と重なり、舌の上を洗い流してくれる効果も
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筍饅頭 尊菜 針蕗 木の芽
素材の甘味が品の良い樽使いのS・L・Hのシャルドネやピノと良くマッチしていました!
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3種3様の趣きのピノ・ノワール
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旬の御魚盛り
「お寿司ではなく、お刺身が好き。素材が良ければご飯はいらない」と語るフィリップさんはS・L・Hのピノとの相性を楽しんでいました!
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私は果実の凝縮感とスパイスの要素を備えたルシエンヌのピノと
上質なわさび、山芋の甘味、お醤油の乳酸が重厚感あるピノを引き立ててくれた印象
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『ルシエンヌ ピノ・ノワール2016』日本未輸入アイテム
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竜髭菜 和牛 黒七味焼き 里芋木の芽味噌
フィリップさんはハーン・ワイナリーのスタンダードのカベルネとの相性を推奨。
スミス&フックのプロプライアタリー、色調は濃く、味わいはなんともまる~い印象
フィリップさんは「お肉というより、魚介類に合わせて」と!
通常に発酵・醸造させたワインと、Flash Détente/フラッシュ・デタントの装置を使用したワインを各50%ずつブレンド。フラッシュ・デタントなる装置の画像は見ることができませんでしたが、「熱い蒸気を直接ぶどうに当てることで、瞬間的に果皮からの色素やタンニンを抽出し、破裂したぶどうの果汁を取り出して発酵させます。ジュースになるまでをフラッシュで行います」との説明でした。
昨年末、エノログの戸塚昭先生に、「赤ワインのインクの様な香り」について質問したところ、「それはメトキシピラジンという化合物の臭いで、緑色を呈した未熟な果実に由来しますが、加温により分解します。 主として早飲み赤ワインや廉価な赤ワインの醸造法である、除梗破砕後の発酵前のマストを約75℃に昇温させる加温醸造法Thermovinificationやフラッシュ・デタントFlash Détenteを 採用すると、未熟な果梗が混入してもメトキシピラジンの臭いを感知することはありません」とのお返事をいただいたことを思い出しました。ちなみにフラッシュ・デタントはメトキシピラジンだけでなく、スモークテイントのぶどう等にも利用できるそうです。
「フラッシュは種からのタンニンを抽出しないので、タンニンは柔らかです。スミス&フックにフラッシュのワインを使うようになってから、女性客の人気が高く、右肩上がりの売れ行きです」とフィリップさん。電気代は相当かかるとのお話でしたが、カベルネ・ソーヴィニヨンの味わいに関しては、良い結果を出しています。
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帆立昆布〆 加賀太胡瓜 加減酢ジュレはS・L・Hのシャルドネやピノで
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甘鯛道明寺蒸し 本わさび 銀あん
鯛の甘味、さくらの葉の塩味、わさびの清涼感が赤ワイン(ピノやカベルネ)と合わせても面白い相性に
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釜炊きにて
天然鯛の炊き込み 香の物 赤出椀
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噛みこむことで旨味倍増のご飯、上品な味わいの鯛、本当に美味、美味
#2のS・L・Hシャルドネに合わせて
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黒糖ソルベ 苺
#7の凝縮感とアルコール由来の甘さとの相性良好
きれいな空間、こだわりの器
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紫芳庵の器の数々、おもてなしの丁寧さが印象的でした。
海外の生産者をお連れしたいスペシャルな空間
ブリティッシュエアウェイズが最大の顧客
冒頭に記述したように、ハーンのワインのNo.1市場は日本であり、 輸入元ワイン・イン・スタイルさんとは長い付き合いがあります。
フィリップさんは、「日本がナンバーワンですが、ブリティッシュ・エアウェイズ(英国航空)のすべての便のファーストクラス、ビジネスクラスの搭載&ラウンジでの扱いがあるので、この数字が圧倒的に大きいです」とおっしゃっていました、これは初耳!
ここで、2012年に『菊乃井』の村田吉弘料理長から伺った味覚の話について触れておきます。1999年からエアラインの機内食開発にかかわっていた村田料理長いわく「機内は、湿度も少なく乾燥しています。ゆえに五感は鈍くなるので、味覚、嗅覚は地上の時より濃いめを好むようになります。そのための一工夫が必要」と。その時に料理長が語っていたのが、“しんみりめ”との表現。
フィリップさんは「ピノ・ノワールはブルゴーニュとは違うスタイル、カベルネはナパとは違うスタイルのワイン造りをしています」と強調していましたが、地上で味わった時のハーンのワインの“微妙な濃さ”が、機上では村田料理長が説く“しんみりめ”になっているのではないかと思います。
■ワインについてのお問い合わせはワイン・イン・スタイル ℡03-5413-8831
http://www.wineinstyle.co.jp/